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1990年代以降,入院歴などのリスクを持たない人が市中で感染する市中感染型MRSA(CA-MRSA)の蔓延が世界的に問題になっている.近年,院内でのCA-MRSA増加も報告されてきており,当院でもPCR-based ORF typing(POT)法の導入後,小児入院患者でのCA-MRSA推定株の優位を確認した.しかしその疫学は不明な点が多い.そこで2003,2008,2013年において当院小児入院患者より分離されたMRSA株を対象にMRSAクローンの細菌学的特徴および疫学を把握する目的で,SCCmecタイピング,multilocus sequence typing(MLST)等の分子疫学解析による検討を薬剤感受性,病原因子検索を含め実施した.SCCmec型は2003年以降,NewYork/Japanクローンを中心とするII型からIV型への転換が進行し,2013年には入院株中IV型の割合が78.6%に達した.また入院IV型46株のうちST8が82.6%,CC8が93.5%を占め,同時に少なくとも7種類のクローンが推定された.病原因子についてはPVL産生株は認められなかったが,入院IV型46株中10株(21.7%)よりtstが検出された.いずれもST8で,そのうち9株は潜在的に病原性が高いとされるST8 CA-MRSA/Jと推察された.POT法については,POT1値とSCCmecII型,IV型,CC5,CC8との間にそれぞれ一定の関連性が認められることを確認した.今後,クローンの動向を把握することは感染症診療や感染対策の基礎として重要性を増すと考えられる.またPOT法は,限界はあるが日常検査としてそれらを補完する分子疫学解析法として有用である.
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京都府立医科大学附属病院臨床検査部 木村 武史
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