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原著
ワクチン接種および全国自然流行で生じた風疹免疫の血清疫学的研究―臨床検査会社のデータを使った解析
1)株式会社ビー・エム・エル, 2)国立感染症研究所名誉所員
伴 文彦1), 増井 幸雄1), 板橋 愛宜1), 井上 栄2)
(令和元年7月23日受付)
(令和元年11月18日受理)
Key words: rubella, vaccination, birth cohort, seroepidemiology
要旨

 【背景】国民の風疹免疫状況は,ワクチン接種行政と自然流行との両方の影響を受ける.風疹ワクチンは,(1)1977年度から女子中学生へ集団接種,(2)1995年度から男女12~15歳へ個別接種(経過措置),(3)男女幼児へは1989年4月から1993年4月の間MMRワクチン,1995年度から単味(のちMR)ワクチン接種が行われた.一方,風疹の自然罹患は主に小学校で起こり,その全国的な大流行は1965~68,1976~77,1982,1987~88,1992~93年の5回あった.本研究では,全国から当検査会社に集まる多数の血清検体の風疹赤血球凝集抑制(HI)抗体データを男女別,および行政年度出生コホート(出生群)ごとの年齢別に集計した結果が,ワクチン行政および全国自然流行の変遷を説明するかどうかを検討した.

 【方法】健常人血清が多く含まれると思われる「診療科名記載なし」の血清で,2010年10月~2018年9月採血・検査の8年分の検体のうち19~60歳の総計672,531件(男87,338,女585,193)のデータを集計した.使える検体情報は性別・満年齢・採血年月のみだが,1年ごとの集計を前年10月~当該年9月の年度で行うと,行政年度出生コホートの75%を反映する値になる(伴ら:感染症誌 2019;93:1~11).この値を特定行政年度出生コホートの年齢別「近似」抗体保有率および平均抗体価として使った(以下,「近似」は省略).

 【結果】まず集計年度別に,19~60歳の1歳ごとの抗体保有率(HI価≧8)および陽性血清の幾何平均抗体価を計算し,これを出生コホート別・年齢別に並べ替えてグラフを描いた.各コホートで8歳分の点を結ぶ線を,滑らかにするために5歳移動平均の線にした.次のことが分かった.1)女子中学生へのワクチン集団接種:1961年度出生群(ワクチン非接種)の保有率は90%程度であり,接種を受けた1962年度出生群(1977年度中学3年生)で保有率が上昇し,1963~80年度出生群の保有率は95%程度になった.2)個別接種(1995年度からの経過措置)を受けた男子:男性の抗体保有率は,1980年度出生群から1982年度出生群にかけて90%まで上昇した.1979年度出生群の保有率は低いままであった.3)風疹全国流行の平均抗体価への影響:1985年度出生群(最後の全国流行〔1992~93年〕を小学生時に経験)の平均抗体価は25.4(42)程度であったが,1988年度出生群(流行の経験なくMMR接種を受けた)では24.8(28)程度と低かった.

 【結論】臨床検査会社の大量の抗体データを男女別,行政年度出生コホート別・年齢別に集計解析した結果は,過去60年間の日本における風疹の疫学を説明でき,また将来の風疹対策に役立つものであろう.

〔感染症誌 94: 174~180, 2020〕
別刷請求先:
(〒350-1101)川越市的場1361-1
BML総合研究所試薬部 伴 文彦

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